3-01-01から1ヶ月間の記事一覧

そのドアはスライド式で普段は電子式認証によって作動する形式のようだが、現在はその処置も空しく半開きとなっている。操作パネルの下にはIDカードが落ちており、侵入者はどうやらこれを探し出すために事務室内を荒らしていたらしいことがわかる。ドアをに…

早速、パネルを開き、透明なプラスチック板に遮られたボタンを強めに押す。そして、横にある通話可能ランプの点滅を待ちながら、本社に報告する内容を頭の中で整理していた。 ところが、いくら待てど暮らせどランプは点滅しない。専用線で本社と通じているで…

事務室の奥には室長らしき者のデスクはあったが電話は見当たらなかった。そこで、初めて他の職員のデスクにも筆記用具や名簿など書類はあったものの、電話がみつからなかったことに気づく。そこで、デスク右側の配電盤の真下にあるはずの通報装置パネルを探…

事務室の中には通報装置ともっとましな外線電話があることを思い出し、すぐ近くの事務室のドアノブに手をかけた。しかし、なにやら濡れた感触から手を思わず引っ込めてしまう。濡れた綿の手袋を鼻に近づけ、においを嗅いでみるも何も匂わない。いや、かすか…

事務室の窓から外を見ると、既に夜の帳が薄紫色の空を映していた。 窓とは反対側の壁には事務員用と思われるロッカーがあった。8つあることからおそらく8人の事務員が勤務していたと思われる。その右側から2番目のロッカーの下の隙間から透明な液体が少しず…

無線機を拾い上げると、かすかにノイズの音が聞こえる。 いつも使用している無線機の扱いと異なることに手間取りながらも、ツマミを調整していると突然、ノイズとは別の音が一瞬聞こえる。 「・・・ず・・・・た・・・れそ・・・ゆ・・ふ・・て」 人の声かも…

奇妙なことに公衆電話の受話器は誰かが慌てて置いたように、下にぶらりと垂れ下がっていた。悪態付きながらも財布から10円を取り出し、事務所の番号を押す。 ひどい雑音とともに呼び出し音が鳴るが、一向に出る気配が無い。 しばらくして、受話器を置きかけ…

手前には施設を案内する金属製の地図が壁に貼り付けられており、赤い三角形が現在位置を示していた。そのエレベータホールからはエントランスホールに戻る通路以外に右側と左側に入居者の個室が並ぶ2つの通路があった。 エレベータのボタンを押す 右の通路を…

擦りガラスを開き、中を覗き込むと案の定、人影は無かった。 「すいませーん、どなたかいらっしゃいませんかー」 エントランスホール同様、その問い掛けに応える者はいないようだ。 ふと、事務室の床に目を遣ると、書類が散乱している。なにかあったのだろう…

呼び出し音の後にいつもながら声の大きい大木のダミ声が聞こえる。 「もしもし、阿漕ですけど、今、笠原愛生会ホームにいまして・・・」 「あー、阿漕君か・・・実はちょっと君に伝えなければいけないことが・・」 無線を置き忘れて巡回先に出てしまったこと…

自動ドアの狭い隙間から腕を抜き、そのままズボンのポケットを探るが、無線の硬い感触は無い。どうやら、午前中に巡回したビルから帰ってきたとき、事務所に忘れてしまったようだ。また、戒告を受ける羽目になるなと毒づきながら、携帯を取り出す。しかし、…

ホールではきれいに彩られたリノリウムの床がエレベータホールへと続いている。受け付けのカウンターはもぬけの殻で、ロッカー脇の事務室にも人の気配は感じない。いないのは職員だけではなく、ホールのソファで、話し込んだり、うつらうつらと船をこいでい…