無線機を拾い上げると、かすかにノイズの音が聞こえる。
いつも使用している無線機の扱いと異なることに手間取りながらも、ツマミを調整していると突然、ノイズとは別の音が一瞬聞こえる。
「・・・ず・・・・た・・・れそ・・・ゆ・・ふ・・て」
人の声かもしれない。慎重にツマミ合わせたまま無線機を口元に近づける。
「あー、だれか聞こえますかー」
しかし、聞こえてくるのはホワイトノイズばかりでチャンネルを変えてみても、それきり人の声らしい音は聞こえなかった。
それとも、希望的観測がただのノイズを人の声と勘違いさせたのだろうか。
しばらく、無線機のスイッチを押してみたあと、とりあえず通報装置で外部に連絡しなければいけないことを思い出し、無線機をデスクに置く。
その時、無線機を置いた手の手袋に僅かに血痕がついていることに気づく。