知り合いの鬼の話

仕事の帰りしなにひょんな偶然で知り合いの鬼に出会った。
「よう、鬼じゃん」
「おう、久しぶり!」
どーしてこんなとこにいるのかと聞くとどーも鬼の総本山で集会があったらしい。
「え、何、鬼の総本山ってこの辺なの?」
「えー、知らなかったの?鬼の総本山ってあそこの山の麓なんよ」
「へぇー」
そんなこんなで話し込んでいる内にオレは前から鬼に対して思っていた疑問を再会した喜びも手伝ってここぞとばかりに彼にぶつけてみた。
「でさぁ話変わるけど、お前って人間喰ったことあんの?」
「何んだよ、藪から棒に、あ、この場合金棒か、あはッ」
最初はそんなふうにして話をはぐらかしていた鬼だったが、オレがしつこく聞くと、
「え、お前マジでそんな事知りたいの?んなこと聞いてきた人間ぶっちゃけお前が初めてだよ」
鬼はオレのそんな好奇心に呆れ果てながらも、オレの疑問を受け入れてくれた。
「てか正直オレがお前らに聞きたいんだけど、おまえら人間って自分たちのニオイに気づいてる?」
まず、オレの疑問に答える前にそんなことを鬼はオレに聞いてきた。
「なんだよ、それ。その質問がお前が人間喰ってきたかどーかと関係あんのかよ?」
「いいからさ、答えてよ、お前ら人間って自分たちが臭いとか思ったこと無い?」
「いやー人に寄るんじゃね?ホームレスやキモヲタは臭い思うけど、普通はあんま臭いとか思わんなー」
「・・・やっぱそーか」
鬼はそー言うと合点がいったよーに少し微笑んだ。微笑んだ笑顔にキラリと牙が覗く。
「よくさー、昔話とかでオレらの先祖とかがさー、人間のニオイがすっぞーどこに隠れてるんだーッ!みたいなこと言うじゃん?」
「・・・うん」
「あれってマジな話だったんよ」
鬼はそーゆーとゴクリと喉を鳴らした。
「うーん、なんつーかなぁ、風呂に入ってねぇとか香水とかそーゆーのとはレベルのちげぇ話なんだよなー」
言いながら、鬼は真っ赤な顔を思案深げに傾げさせた。
「説明しにくいんだけど、お前ら人間て共通のニオイがすんのよ、オレらにとっては。なんて喩えたらいいんかなー、あ、そうだ、一番お前らのニオイにちけぇーなーと思ったのは、アレだな、えっと、ほら、そうそう、魚肉ソーセージ!アレのニオイとお前ら人間のニオイって似てんだよ、まぁ催し度は全然違うけどな」
「催し度?」
オレがそう問い返すと、鬼は急に目線を外した。
「いや、あのぉ、なんちゅーか、子どもはまた別なニオイがすんだけどな、大人と違って・・・。んーこーなんちゅーか、甘酸っぱいとゆーか甘ったるいちゅーか、あ、人間のゲロのニオイと子どものニオイが似てるなぁ・・・わかる?」
わかるわけない。しかし、そんな事はおくびにも出さず俺は先の話題をまた鬼に振った。
「おまえらがオレらのニオイに敏感なことはわかったからさ、そいでお前は人食ったことあんの?」
鬼はしばらくオレをじっと見つめた後、ぼそっと呟いた。
「・・・あるよ、もちろん」
「・・・!」
心のどこかで予想はしていたものの、いざ俺はその答えを聞くと「マジでーッ!」「ゲーーーッ!」とかベタなリアクションさえ出来なかった。
自分でも想定できなかった動揺を鬼に悟られまいとオレはさらに鬼に質問した。
「で、うまかった?」
動揺したせいか、オレの質問はひどく間の抜けたものだった。しかし、そんな間抜けな質問にも鬼はちゃんと答えた。
「いや、最初は正直マズかった。てか、オレは最初の最初は戻しちまった、すぐにな」
そー言うと、鬼はいかにマズそーな顔をした。記憶が蘇ったのだろう。
「あんだろなぁ、うーん、すげぇ酸っぱいんだわ、お前らの肉って。牛とか馬とか鹿とかと違ってな。」
なんだ、倫理観で気持ち悪くなったわけじゃないのか。まぁ鬼だからあたり前だが。
「でもさぁ、マズいんだけど、うーん難しいんだけど、オレらもある年齢に達すると、そのマズーいもんがすげー喰いたくなる時がくるンよ、まぁおまえら人間の中学生がオナニーに夢中になるだろ、罪悪感に苛まれても。あれと似たような感じかな?」
「・・・ふーん。」
現実離れした話をさらりと語って聞かせる鬼に対して適切なリアクションなどもちろん知らない俺はあたりさわりのない返答を返した。
「オレも最初はさぁ、んなもん喰えるかよ、オレだってお前みたいな友達がその頃にも何人か居たからさー、喰うわけねぇって思ってたんだわ。だけどよぉ、ある朝突然、匂うのよ、お前らのにおいが。魚肉ソーセージみたいな臭いがな。それまで全然臭わなかったお前らの臭いがプンプン匂って来るのよ、不思議だよなぁ〜アレは。あの臭いを嗅いだ途端、今まで喰えるわけねぇっとか思ってた考えなんか吹っ飛んじまうのよ、うーん、お前ら人間にはわからんのだろーなー」
わかってたまるか。わかったらオレも鬼の仲間入りだ。
「えー、そーすっと、性欲みたいなもん?」
「え、うーんオレらお前ら人間ほど交尾にヴァリエーションを加える欲求がねぇからなーわかんねぇけどw。いや、でももっとずっと強力な欲求だと思うなぁ、気づいたら喰ってるもん、マジで。」
「こえぇーーーww」
オレはやっとそこでリアクションらしいリアクションが取れるよーになっていた。まぁちょいとリアクション間違いな感じではあるけれど。
「そーさなぁ、今じゃ一ヶ月に2、3人は食ってるかなぁオレも。まぁさすがにお前みたいな親友は喰わねぇけどなw」
「あたりめーだろw喰われてたまるかよ!」
オレは自分の笑顔が強張ってるのを意識しながらも、その強張りを解くことはできなかった。
「あーそろそろやべぇわ、帰んないと親父に怒られるわ、マジ鬼みたいに怒るんだぜ、オレのオヤジ」
「つか、ホントに鬼だろw」
そんなこんなで別れ際に二言三言鬼と言葉を交わしたオレは再び駅の改札口に向かおうとした。
すると、けたたましいオンナの悲鳴が聞こえた。何事かと振り返ると、今月に入ってからまだ一人しか食ってねぇとほざいていた鬼の野郎がオレと別れた途端吹っ切れたのか、女子高生を頭から食おうとしてたので、さすがのオレもキレて鬼をその場で退治した。
所詮、鬼。奴らは場を選ぶっつぅーことを知らん。

報道の現場 -ディスマスコミュニケーション

松「えー、ただいま入ってきた情報によりますと、現地に彦見リポーターが到着したようです。えー聞こえますか、彦見さん?」
現「ヴゅ・・・ズササ・・・ビィー、わ・・・たし・・リ・カ・・・ちゃ・・・・ジイ・・ビブブ」
松「え、ただいま現場からの音声に乱れがあったことを」
現「えー、こちら、中継の彦見・・・むちゃ・・ん・・・です!こちら現場ではっ・・・ズ・・ブっ・・ヒギぃ」
松「聞こえますか、彦見さん?そちらの状況を教えてください・・・・えーまだ音声が通じていないようd」
現「あー、ですが、えーっと聞こえてます、ハイ、ただいま現場では」
松「どうやら繋がったようです。そちらの状況をお願いします」
現「あ、・・スぃーまん・・ビョビョ・・こ・・・・現場では・・・ビ・しじみを・・ザいれるとザ・・青白い味噌汁が・・・」
松「えーっとすいません、もう一度お願いします」
現「はい、ただいま現場では騒然とした様子でして、現在でも轟音が響いて、あ、ちょ、危ない・!下から岩崎宏美が繰り出して・・マド・・・・ちの・・ラバイ」
栗「周辺の人々はどうされてますか?」
現「モロッコ帰りの・・ル麻紀の・・そこから・・・たまごが、たまごがつぎからつぎへと・・・ぽろりぽろりと出て・・ブー---」
松「あのぉ〜聞こえますか?彦見さん、えー彦見さん?」
現「・・・はい、えー池中玄太、今のところ体重を維持してます」
栗「・・・ちょっと現場との音声が」
現「すごく・・・大きいです・・・」
松「彦見さん、何が大きいんですか?」
現「おはぎが・・・おはぎが出ちゃう・・・」
栗「彦見さん、どうされました?、彦見さん!」
現「・・・はい、今ですね・・冬虫夏草が・・・たしの・全身か・・ニョキニョ・・きと」
松「えー、状況がよくわからないのですが、彦見さん?聞こえますか」
現「ピー・・・ブブブ・・ガガ・・・えー私は今、・・つん這いの状態のまま・・後ろから・・そうにゅ・・・・うぐぅッ・・・・・・メガネ、くもっちゃったっ!・・・るまにポピーィィィーーー・」
栗「彦見さん、聞こえますか?・・・死傷者などはどうなってますか?」
現「・・・はい、あたり一面ですね・・高速で飛び交う・・コにゃんぼ・・が警官隊と・・のう恭子がゴマだれまみれになりながら、あ、アブ・・・ちょ・・そ・れ・・ゆずぽ・・・ザー・・・岡部マリ・・・ザザー」
松&栗「・・・・・」
松「えー、彦見記者からのIT最前線レポートでした」

久しぶりにsai時記


うーっむ、やはり塗りは難しい。てか前回からの課題なのだが髪の毛をどーしたらいいものかさっぱりわからん。
パーティション分け塗りはめんどいしなぁ、どーしよー??

追加よーん


これはまだシャドー入れる前だす。

ちょいと髪の毛塗ってみた


こうですヵ?ゎかりませn><;

髪の毛 その2


うーっむ何か違う・・・。

謎のリンクを配る男たち

その男たちは昼下がりのとある住宅街に突然あらわれた。
ピンポーン、ピンポーン
こんな昼間に誰かしら、回覧板なら昨日回したばかりだし、新聞代も一昨日払ったし・・・。
宜菜子は訝しげな表情でドアチェーンを外さないまま、慎重にドアを開く。すると見慣れぬ水色のツナギを着た男たちが玄関先に佇んでいた。
「すいませーん、はてなの方から参りましたー」
妙に明るい声色に宜菜子はかえって警戒心を強めた。
「あの・・・、どなた?」
そんな警戒心に満ちた宜名子の様子を微塵にも解さないようにその男は応じた。
「いや、あのですね〜、ただいま、はてなをご利用されてるお客様にですねぇ〜サーバ移設に関する注意事項を戸別にお伝えしているんですよぉ〜というわけで開けてくださいませんかねぇ〜」
そう言い終えると、その男はさりげない動作で靴をドアの隙間に挟み込んだ。見ればそれは安全靴のようであった。
しかし、いくらさりげないとはいえ、宜菜子はそれを見逃さなかったし、それがその男の声色とは全く異なった意図を孕んでいることにも既に気づいていた。
だが、その有無を言わさぬ男の行動が宜菜子をかえって恐怖の鎖で捉えることを成功させた。
震える手でドアチェーンを外す宜菜子。
「いやぁーすいませーん、無理を申しまして、実はですねーはてなもアクセスビリティーを向上させるためにですねー」
宜菜子は半ば惚けたような表情でその男がペラペラとまくし立てるのを眺めていた。まるで現実感がないのだ。言いようのない恐怖によって宜菜子の思考が遮られたためだった。
「我々はですねーそんなお客様のご要望に極力沿っていく方針でして、その結果、サーバ移設ということにあいなりまして・・・」
男の良く動く舌から発せられた、意味を伴わない言葉の連なりが宜菜子の目の前を通り過ぎていく・・・。
そんな麻痺した頭の中で突然、警告を告げる宜菜子自身の心の声が聞こえた。
「ダメよ!ぎなちゃん、この人たちを家の中に入れてちゃダメ!この人たちは危険だわ!」
しかし、その声に従おうにも体が動かない。表情は柔和でも強引に押し入ってきた男たちの恐怖に宜菜子はがんじ搦めにされていたのだ。
「ですので、今ですねぇアカウントをお持ちのお客様にチェックサービスとして」
「あの、ちょっと、ちょっと待って下さい」
ようやく搾り出した宜菜子の声は本人が思ってた以上に恐怖と不安でかすれていた。
「あ、あの、よくわからないんですけど、そのはてなというのは」
「あぁーこれは失礼しました、では主にメインでご利用されてたのはご主人なんですね?でしたら奥様、我々はですね『つながり』をキーワードとした、ご家族皆様の・・・」
宜菜子の質問はまるで空中に浮かぶ泡のように漂った。主導権はこの男たちが握っているのだ。余計な疑問や質問は許されないことを男たちの態度は示していた。それは痛いほどに・・・。
「・・・ところで、こんなことをまた申し上げてはいけないとは思うのですが、いやー我々も奥様とじっくりとお話をさせて頂きたいですし、そのぉ〜上がらせてはいただけませんかー♪」
そこから先、詳しいことは覚えていない。ただ、男たちが入れ替わり立ち代りに横文字の難しい、宜菜子には到底理解できないような言葉を並べ立てたのは覚えていた。男たちは如何に「はてな」が素晴らしいか、そしてまた如何にその「はてな」のアフターサービスを実施して回っている自分たちが信用できるかということを手を換え品を換えまくし立てていったのだった。また、厚かましくもその男たちの中の一人は宜菜子に喉が渇いたということで飲み物さえ要求した。
「あのぉすいませんけど、ダイエットコークありますかね?」
異様なほど目をギラつかせながらも、カエルのように腹を突き出したその男はまるで当然の如く飲み物を要求した。
「あ、え・・・あの、その、『新世紀エヴァンゲリオン』LCL注水完了:オレンジジュース味ならございますけども・・・」
「ちっ・・・あ、じゃぁそれでいいや」
あからさまに舌打ちをすると、その男は汗で脂ぎった額をハンカチで拭った。
戸惑いつつも宜菜子がテープルに件の飲み物を男たちの前に並べ置くと、その男は先程不服を表明したのを忘れたかのように我先にオレンジジュースを飲み干した。
「すいませんねぇ、我々がまるで奥さんに要求したみたいで・・・へへへ」
実際に要求しておきながら、リーダーらしき男は表面上だけでも取り繕おうと礼の言葉を述べた。だが、その顔には感謝の意が微塵にも感じられないような下卑た笑いだけがあった。
思わず宜菜子は軽い吐き気を催した。
  
・・・やがて、そんな永遠にも思われる悪夢のような時間も過ぎ、ようやく男たちが帰っていったのは3時間後の夕方であった。ただひとつのモノを残して。
それは見慣れない文字列であった。
http://tinyurl.com/36zogh
パソコンに疎い宜菜子でも、それがURLらしいことだけは理解できた。
途切れ途切れに男たちの言葉が蘇る・・・。
「ですので、奥さん、はてなが重いなぁーとか、エラーで開かないなぁーと思ったら・・・必ず、”この”アドレスにアクセスしてくださいね!お願いしますよ、必ずですよ!」
再び不快な感情に押し流されそうになりながらも、宜菜子はふつふつと湧き上がる自身の好奇心に打ち勝つことができなかった。
夫の書斎に向かった宜菜子は慣れない手つきでPCを起動させ、例のアドレスを人差し指で一文字一文字づつ入力していった。
その時、再びあの声が宜菜子の頭の中に響いた。
「ぎなちゃん、らめぇ〜〜!もしもグロ画像やウィルスだったらどーするのぉ〜!?こんなワケのわからないアドレス開いちゃらめぇ〜!!」
しかしアドレスを入力し終えると、その声を無視するかのようにEnterキーを押している宜菜子がそこにいた。
大丈夫よ、きっと。アノ人のことだからウィルス対策はちゃんとしてるだろうし、それに意外とこう見えて私はグロに強いのよ。いえ、女ならある程度のグロ耐性は皆もっているもの・・・。
そう一人呟きながらページが開くのを待っていると、グロでもウィルスでもない、何の変哲もないサイトが画面に表示されていた・・・。
                  :
                  :
玄関の鍵の開く音が真っ暗な部屋の中に響く・・・。
「・・・おーい、いないのかー?宜菜子〜、おい・・・なんだ電気もつけずに・・・」
夫の史郎人は出迎いに出てこない宜菜子を不審に思いながら、書斎でPC画面を見つめる宜菜子に呼びかけた。
「おい、居ないと思ったら、こんなトコで何してるんだ・・・ダンナが帰宅したってのに・・・、おい・・・聞いてるのか、おい、宜菜子!・・・ん、おい?おい、どうしたんだ宜菜子?おい!!宜菜子!!」
史郎人の声が一切聞こえないのか、宜菜子は食い入るようにPC画面を見つめたまま、あるボタンをクリックしようとしていた。
オレ理論グループの参加申請ボタンを・・・。

東京暇人學園素人帖 - はてなに集まりし人外の者たち

校庭に吹きすさぶ旋風の中、夕日を背にした影が六つ。
影の主らは自分たちの動き出したその宿星の運命をまだ知らない…。
   
  
時は2012年、龍脈の乱れから永き眠りに就いていた邪悪なネットイナゴの封印が解かれ、それにより引き起こされた自然災害(炎上)、特に千葉を中心とする超巨大地震によって都市はもとより はてなムラの秩序は破壊され、人々の心は悲しみと絶望に満ち、しなもんはヨソ犬に咆え付いていた…。

  
「あわわ、どうしよう、ノート探してたらこんな時間になっちゃったよう…、あれ、もうすぐ戒厳令の時間なのに誰かまだ校門の近くに人がいる…?」
そうして少年が目を凝らすと、その影は少年の方へと近づいてきた。
「どうやら、ワタシだけではないようね、ふふ」
「え?あ、ボクのことですか??えーっとアナタは」
少年はその長身の少女に急に話しかけられ、思わず動揺してしまう。
「おい、チビ!おめぇーのことじゃねーよ…、な、委員長!」
「え、委員長?」
後ろから投げかけられた声の主を見極めようと振り返ると、そこには夕闇に紛れるような浅黒い肌をした少年がフェンスに腰掛けていた。
「なぁ、"導かれた"のはオレたちだけじゃないんだろ?」
フェンスの上から少年はそう呼びかけるが、委員長と呼ばれた少女は微笑みながらも応えようとしない。
「あれ、お二人さん、お早いですねぇ?」
そこへまた三人目が現れた。
「けっ、誰かと思ったら陸上部の魅僧かよ」
日に焼けた肌を持った少年はそう悪態をついた。
「あ、やっぱりあなたでしたね、月読さん…というより委員長とお呼びしたほうがいいかな?」
そう言うと、すらりとした色白の少年、魅僧は少女に向き直った。
「まさかあなたもなんて、意外だったわ、魅僧君」
言葉とは裏腹に少女の顔には驚きの色は一切見えない。
「おい、オレを無視すんなよ、魅僧」
「あ、これはこれは、失礼しました…。野球部キャプテンの湯月さん」
「ふん!"元"キャプテンだよ…嫌味な奴め!」
「…えーっと、あなたたちは一体…?これは何かの集まりですか?」
3人の言動を訝しく思った少年は先ほど探し当てたノートをカバンに仕舞い込みながら3人に問いかけた。
が、答えは返ってこない…。
「みなさんお集まりでごわすか!」
地響きと共に校舎の裏から巨大な影が現れた。
「うわあ」
その巨躯に驚いた少年は尻餅をついた拍子に、仕舞ったばかりのノートをカバンから取り落とす。
「ほう、柔道部の御山までご登場か」
口笛とともにそう囃したてると"元"野球部キャプテンこと湯月は面白そうに御山の巨体を眺めていた。
そうこうしているうちに何処からともなく もうひとつの影が現れ、5人に語りかけた。
「どうやら全員集まったようね…?あら、あなたは?」
ノートの泥を払い、立ちあがりざまに見上げるとそこには保健室の女医、鶯原が立っていた。
「え、え??ボ、ボクは〜」
ここで始めて月読の顔に表情らしきものが一瞬浮かぶ。
「宿星に導かれし者たちの中にあなたが入っているなんて…!」
その言葉をよそに鶯原は涼しげに髪をかきあげる。その妖艶とも呼べる姿は保健室での鶯原とはまるで別人のように見えた。
「あら、校医が入ってはいけないなんて誰が決めたの?」
あのずと二人の間に緊張が走る。そこへすかさず魅僧が割って入る。
「まぁまぁ、ここはひとまず自己紹介から始めませんか?お二人さん」
そのように言い終えると、また魅僧はひょいっと体を二人の間から引っ込めた。
「それもそうね…。まず、委員長のワタシから自己紹介しなきゃね。ワタシは『詠』の星を宿星に持つ女、エントリから自在に自分の都合のいい事を読み取ることができるわ…!」
「へぇ〜、まさかそんな奴が"オレ"以外にホントにいるなんてねぇ〜」
そう軽口を叩くと、湯月は今度は自分の番とばかりにフェンスから飛び降りる。
「オレは、『被』の宿星を持つ男、言われてもいない中傷を無から取り出し、それを元に他者に対する強い憎しみを駆使できるッ…!ま、そんなトコかな・・わっ…ちょ」
巨体に前を遮られた湯月は思わずフェンスへと倒れこむ。
「てめぇ人が喋ってるのに何しやがr」
「おいどんは柔道部主将、御山と申す者でごんす。おいの宿星は『無』、どんなにクネっている時でもイヤになればすぐに気配を消すことが出来るでごわす。アカウント削除なんておてのものでごわす」
そのように言い終えると、御山の巨体はふっとかき消す様に消えた。
「なるほどねぇ〜、みんさん噂どおりの特殊な"能力"をもってるんですねぇ〜。あ、遅ればせながら、陸上部主将、魅僧といいます。オレの宿星は『争』、どんな些細なことでも揉め事に発展させることのできる自意識を持ってるんです。以後よろしく♪」
「さすがにここではその能力は使わないでね」
鶯原は微笑みながら5人の中央に颯爽と歩み出る。そして月読の顔をしかと見据えながら喋り始めた。
「わたしはみんなの知っての通り、保健室のおばさん…って言ってもまだ20代後半だけどね。名前は鶯原非女子、宿星は『離』、あらゆるコミュニケーションをスルーすることができるの。一ヶ月間誰とも話さなくても平気なのよ…どう?すごいでしょ?ふふ」
残りの者たちの沈黙がその問いかけを肯定していた。ただ一人を除けば…。
「あ、えーとぉ、ボ、ボクはぁ〜」
沈黙を破ったその少年に、皆の驚きの視線が集まる。
「えぇ〜 ボ、ボクの名前は…えーっとカノセと言います…よろしくお願いします」
不可抗力とはいえ、この状況を内心苦々しく思いながらもカノセ少年は重苦しい空気をかき消すように言葉を継いだ。
「あのぉ、えーっと…と、ところで皆さんがさっきから言ってる、『宿星』とか『能力』って一体なんなんですか?あの…こう言っちゃなんですけど、あのぉ…みなさん、まるでスゴイ能力のように言ってますけど…それってみんな社会不適合者ですよね…?」
それを言っちゃぁいけないよ〜と龍脈は地の底からツっこんだがその声はもちろん人界たる学園には届かなかった…。

夢のなれの果て - くそみそシミュレーティング

akogina2007-04-08

「いよいよ完成しましたね」
「あ、これは、博士・・・はい、一応プロトタイプですが仮想人格モジュールのインプリメントテストは既にクリアしています」
「ではあとは被験者の搭乗テストのみですね」
「はい・・・しかしまだ『適性者』の選別が終了していませんので」
「それではわたしが乗ってみましょう」
「いや、ですが・・・!博士はプロジェクトの中核を担う方ですし、そのような危険を冒すわけには・・・」
「しかし、提唱者の私が『適性者』であることは誰の目にも明らかでしょう」
「それでも・・・」
「ウ=グイッシュ君、あなたはオレ理研の初期オリジナル・メンバーです。自分の開発したものにもっと自信を持ってください。・・・では搭乗の準備を」
「・・・はい、わかりました。フーミ所員、プラグ挿入の準備をお願いしまつ」
「(ザザ・・・ザ)はい、え?プラグ挿入の準備ですか?でもまだ被験者選抜のスケジュールが」
「いや、それについては博士の許可が下りている・・・実は博士が搭乗されるのだ」
「え・博士がですか?・・(ザザザ・・・)では」
「博士自身が決断されたことだ」
「・・・了解。ではエントリープラグを第一アンチ・コミュニケーション・ルームに射出しまつ」
      :
      :
「博士、聞こえますか?今のところ状態は安定しています。シミュレート開始準備も最終段階に到達しています」
「では、始めてください」
「了解しました。それでは今からS型ソーシャルアイソレーションマシンによる「真の」非コミュ心理シミュレート実験を開始します。博士、準備はよろしいですか?」
「"彼ら"を納得させるために必要な唯一の方法です。この機会に賭けるしかないでしょう」
「しかし・・・「真の」非コミュの存在はまだ理論段階であり、その心理機構を安全にシミュレートするのにはまだクリアされてない問題が・・・」
「提唱者は私です。その私が実際に体験しなくてどうするんです?非コミュという『適性者』である私がね」
「・・・そうまでおっしゃるのなら仕方ありませんね。・・・ではフーミ所員、第一フェーズであるkiya式非モテ回路による心理機構導入のコントロールをお願いしまつ」
「了解。ミソジニーフィルタリングによる情動誘導に移ります」
「うがぁ・・・!」
「・・・!?大丈夫ですか、博士!」
「はは、・・・心配させてすいません。なぁにちょっと予想してたものより刺激が強かっただけです。続けてください、ウ=グイッシュ所員」
「ですが、博士の非コミュ心理曲線をモニタリングしますと、既に・・・」
「構いません。わたしが決めたことです。これで殉ずるようなことがあればそれで本望です」
「・・・しかし!」
「続けてください」
「・・・わかりました。では第二フェーズ、クネリング・モジュールのリジェクトを行います。カウントダウン」
「(ムタイ・システムの音声インターフェース)ハジメマス 10・9・8・2・8・4・6・3・1・スタート!」
「(あいかわらずメチャクチャだ)リジェクトオフ!」
「ぐっ・・・!」
「博士!」
「そのまま、お願いします・・・うぅ」
「・・はい、では最終レベルの第3フェーズ、ソーシャル・アイソレーションの完全実行・・・オン!」
「(ムタイ・システム)ビィビィビィビィ---(音声インターフェース)緊急事態ハッセイ、緊急事態ハッセイ、搭乗者ノメンタルステートガ危険水域3ニ突入・・・緊急事態ハッセイ、布施明ノ元嫁ハオリビアハッセイ」
「な、何が・・・博士!博士!!」
「(ザザ)こちらkiya式非モテ心理回路コントロールルームのフーミ、駄目です!プラグ内から応答がありません!」
「なんてことだ・・・仕方ない、ムタイ、過剰リテ能力による非コミュ心理曲線を再構築してくれ」
「カシコ・マシタ・・・マシタコノミ・・・ビィー・・・キャンセル・構築不可能デス・・・「真の」非コミュ心理機構ガ搭乗者ヲ拒絶・・・非コミュスパイラルガ完全ループ化・・」
「何・・・何故だ・・・何故拒絶する・・・」
「こちらフーミ、危険水域4に突入、このままでは博士の命に関わります・・・あ、プラグ内の同調圧力が急上昇!」
「で、ではプラグ排出準備に・・・」
「ダメです!排出するにはクリリン指数が高すぎます!」
「クソッ・・・どうすれば・・・?!はっ、そうかプラグ内に非コミュフィッシング用仮想エロファイルで探針すればいいのか・・・よし、ムタイ、20sec以内に仮想エロファイルを構築、プラグ内のサブのコミュ媒体から接続し投入してくれ」
「了解シマシタ。エロファイルノシミュレートレベルハドウシマスカ?」
「・・・そうだな、レベル『少女秘宝館』だ・・・!」
「カシコマシタ・・・マシタアケミ・・・ア、マシタジャネェヤ、マスダダ・・・Eファイル構築終了・・・投入シマス」
     :
     :
ザッ゙パーーーーーーーーッ!!!
「博士・・・!博士!!、よ、よくご無事で・・・くっ」
「・・・ウ=グイッシュ君・・・わ、わたしは一体・・・」
「覚えてらっしゃらないのですか、あの後・・・最終フェーズ後、博士の非コミュ心理曲線が完全にオーバークラッシュ・・うわっ臭っめっちゃ臭っ!!」
「はは、どうやら漏らしてしまったようです・・・」
       :
その後、この「真の」非コミュ心理シミュレート実験プロジェクトはトモムン機関の決定により完全に凍結された・・・