東京暇人學園素人帖 - はてなに集まりし人外の者たち

校庭に吹きすさぶ旋風の中、夕日を背にした影が六つ。
影の主らは自分たちの動き出したその宿星の運命をまだ知らない…。
   
  
時は2012年、龍脈の乱れから永き眠りに就いていた邪悪なネットイナゴの封印が解かれ、それにより引き起こされた自然災害(炎上)、特に千葉を中心とする超巨大地震によって都市はもとより はてなムラの秩序は破壊され、人々の心は悲しみと絶望に満ち、しなもんはヨソ犬に咆え付いていた…。

  
「あわわ、どうしよう、ノート探してたらこんな時間になっちゃったよう…、あれ、もうすぐ戒厳令の時間なのに誰かまだ校門の近くに人がいる…?」
そうして少年が目を凝らすと、その影は少年の方へと近づいてきた。
「どうやら、ワタシだけではないようね、ふふ」
「え?あ、ボクのことですか??えーっとアナタは」
少年はその長身の少女に急に話しかけられ、思わず動揺してしまう。
「おい、チビ!おめぇーのことじゃねーよ…、な、委員長!」
「え、委員長?」
後ろから投げかけられた声の主を見極めようと振り返ると、そこには夕闇に紛れるような浅黒い肌をした少年がフェンスに腰掛けていた。
「なぁ、"導かれた"のはオレたちだけじゃないんだろ?」
フェンスの上から少年はそう呼びかけるが、委員長と呼ばれた少女は微笑みながらも応えようとしない。
「あれ、お二人さん、お早いですねぇ?」
そこへまた三人目が現れた。
「けっ、誰かと思ったら陸上部の魅僧かよ」
日に焼けた肌を持った少年はそう悪態をついた。
「あ、やっぱりあなたでしたね、月読さん…というより委員長とお呼びしたほうがいいかな?」
そう言うと、すらりとした色白の少年、魅僧は少女に向き直った。
「まさかあなたもなんて、意外だったわ、魅僧君」
言葉とは裏腹に少女の顔には驚きの色は一切見えない。
「おい、オレを無視すんなよ、魅僧」
「あ、これはこれは、失礼しました…。野球部キャプテンの湯月さん」
「ふん!"元"キャプテンだよ…嫌味な奴め!」
「…えーっと、あなたたちは一体…?これは何かの集まりですか?」
3人の言動を訝しく思った少年は先ほど探し当てたノートをカバンに仕舞い込みながら3人に問いかけた。
が、答えは返ってこない…。
「みなさんお集まりでごわすか!」
地響きと共に校舎の裏から巨大な影が現れた。
「うわあ」
その巨躯に驚いた少年は尻餅をついた拍子に、仕舞ったばかりのノートをカバンから取り落とす。
「ほう、柔道部の御山までご登場か」
口笛とともにそう囃したてると"元"野球部キャプテンこと湯月は面白そうに御山の巨体を眺めていた。
そうこうしているうちに何処からともなく もうひとつの影が現れ、5人に語りかけた。
「どうやら全員集まったようね…?あら、あなたは?」
ノートの泥を払い、立ちあがりざまに見上げるとそこには保健室の女医、鶯原が立っていた。
「え、え??ボ、ボクは〜」
ここで始めて月読の顔に表情らしきものが一瞬浮かぶ。
「宿星に導かれし者たちの中にあなたが入っているなんて…!」
その言葉をよそに鶯原は涼しげに髪をかきあげる。その妖艶とも呼べる姿は保健室での鶯原とはまるで別人のように見えた。
「あら、校医が入ってはいけないなんて誰が決めたの?」
あのずと二人の間に緊張が走る。そこへすかさず魅僧が割って入る。
「まぁまぁ、ここはひとまず自己紹介から始めませんか?お二人さん」
そのように言い終えると、また魅僧はひょいっと体を二人の間から引っ込めた。
「それもそうね…。まず、委員長のワタシから自己紹介しなきゃね。ワタシは『詠』の星を宿星に持つ女、エントリから自在に自分の都合のいい事を読み取ることができるわ…!」
「へぇ〜、まさかそんな奴が"オレ"以外にホントにいるなんてねぇ〜」
そう軽口を叩くと、湯月は今度は自分の番とばかりにフェンスから飛び降りる。
「オレは、『被』の宿星を持つ男、言われてもいない中傷を無から取り出し、それを元に他者に対する強い憎しみを駆使できるッ…!ま、そんなトコかな・・わっ…ちょ」
巨体に前を遮られた湯月は思わずフェンスへと倒れこむ。
「てめぇ人が喋ってるのに何しやがr」
「おいどんは柔道部主将、御山と申す者でごんす。おいの宿星は『無』、どんなにクネっている時でもイヤになればすぐに気配を消すことが出来るでごわす。アカウント削除なんておてのものでごわす」
そのように言い終えると、御山の巨体はふっとかき消す様に消えた。
「なるほどねぇ〜、みんさん噂どおりの特殊な"能力"をもってるんですねぇ〜。あ、遅ればせながら、陸上部主将、魅僧といいます。オレの宿星は『争』、どんな些細なことでも揉め事に発展させることのできる自意識を持ってるんです。以後よろしく♪」
「さすがにここではその能力は使わないでね」
鶯原は微笑みながら5人の中央に颯爽と歩み出る。そして月読の顔をしかと見据えながら喋り始めた。
「わたしはみんなの知っての通り、保健室のおばさん…って言ってもまだ20代後半だけどね。名前は鶯原非女子、宿星は『離』、あらゆるコミュニケーションをスルーすることができるの。一ヶ月間誰とも話さなくても平気なのよ…どう?すごいでしょ?ふふ」
残りの者たちの沈黙がその問いかけを肯定していた。ただ一人を除けば…。
「あ、えーとぉ、ボ、ボクはぁ〜」
沈黙を破ったその少年に、皆の驚きの視線が集まる。
「えぇ〜 ボ、ボクの名前は…えーっとカノセと言います…よろしくお願いします」
不可抗力とはいえ、この状況を内心苦々しく思いながらもカノセ少年は重苦しい空気をかき消すように言葉を継いだ。
「あのぉ、えーっと…と、ところで皆さんがさっきから言ってる、『宿星』とか『能力』って一体なんなんですか?あの…こう言っちゃなんですけど、あのぉ…みなさん、まるでスゴイ能力のように言ってますけど…それってみんな社会不適合者ですよね…?」
それを言っちゃぁいけないよ〜と龍脈は地の底からツっこんだがその声はもちろん人界たる学園には届かなかった…。