岡ピんの秘密

いつもどおりセンターに空缶を届け、軽くなったリヤカーを引きながら、岡ピんは美しい夕焼け空を眺めて歩いていた。今日はクリスマス・イヴということでセンターの職員達は岡ピんのような収集者にもクリスマスプレゼントとしてお菓子を配っていた。岡ピんは大事そうにそのお菓子を懐から出して、隣のナベさんといっしょに食べる様子を想像してほくそえんだ。きっと、ナベさん、喜ぶだべなぁ。ナベさん歯ぁネェけど、きのこの山なら、舐りながら食えるモンな。そのような想像をしながらゆっくり歩いていると、いつもなら通りを曲ったところに見える大きな工場の姿がないことに気づき、岡ピんの足がぴたりと止まった。
ああ、そうだった、ここんとこにあった工場は火事で焼けたんだったべなぁ・・・。かわいそうに、こんまい子供たちも火事に巻き込まれたんだってなぁ。岡ピんは一週間前に起きた工場の爆発事故を思い出し、見学に来ていた可哀相な犠牲者たちに胸を痛めた。たしかに、あまり頭がよくない岡ピんであったが、その心はとても優しかった。
警察による現場検証が終わり、一週間たった今でも、爆発現場である工場跡地はまだ完全には片づけられていなかった。岡ピんは迷いながらも、懐からお菓子を出すと、遺族が供えたのであろう花束やお菓子、飲み物が置かれている場所にそっとそれを添えた。ナベさんにはワリィけど、こん子たちのほーがかわいそうだかんなぁ。岡ピんは汚れた軍手をはめた両手を合わせ、静かに子供たちの冥福を祈った。
やがて、目を開けた岡ピんにキラリと光るものが見えた。なんだべ、アレ。岡ピんはその焼けこげた地面でキラリと光るものに手を伸ばした。最初、岡ピんには空缶のプルトップに思えたが、手にとってみると、それはペンダントであった。うわーキレイだべなぁ・・・。岡ピんはそのペンダントの造形にうっとりしながら夕焼け空にそれを透かし見た。しかし、すぐにあたりをキョロキョロと見回すと、岡ピんはそそくさとそのペンダントを胸にしまった。これはこどもたちからのくりしますぷれじでんと?にちげぇねぇだ。こんだキレイなもんはオイラ見たことねぇ。
やがて、再びリヤカーを手にすると、あらたな宝物を携えた岡ピんは足取り軽やかに家路へと向かっていった。
しかし、岡ピんは知らない。そのペンダントはロケットになっており、中には一人の少年、阿島少年の写真が入っていることを。そして、そのペンダントは阿島少年の妹の遺品であることを・・・。