目指す者たち

黒木の遺した細胞構造分離カプセルの効果は著しかった。
狭山の決死のサイコダイヴでも止められなかった"獣"の暴走を、たった一発のグレネード弾に込められた小さなカプセルによって阻止できたのだ。
しかし、その成功はあまりにも苦い犠牲を強いたものであった。
「阿島さんッ!!」
亜子は阿島の元へと、濛々と粉塵が立ち込めるなか、駆け寄った。
しかし、そこに阿島がかつて存在したことを示すものは殆ど残っていなかった。たったひとつのペンダントを除いて。
そのロケットにはあの"SBM工場の惨劇"で亡くなった阿島の妹の写真が収められていた。
「阿島さん・・・。」
亜子は失ってはじめて自分の中での阿島の存在の大きさを思い知った。たった数日間、行動をともにした相手であったが、その数日間は数年にも匹敵するように思われた。
「阿島さん・・・あたしなんかのために・・・。」
その時、亜子の背後で物音がした。
「・・・!!」
「すまないが、ちょっとコイツを引っぱってくれないか。」
瓦礫の中から聞こえた声は紛れもなく狭山の声であった。
「狭山さん、無事だったの!」
「おいおい、勝手に殺してくれるなよ、それよか、コレを」
亜子の助力によってなんとか脱出できた狭山は事態が終結したことを悟ったようだった。
「ようやく終わったな。」
「うん・・・。でも・・・。」
「ああ、失ったものが多すぎる。この地球にも匹敵するぐらいのな。そして、ながい、ながい、六日間だった・・・。」
そんな時、無音の夕暮れの日差しの中、二人に掛けよる小さな影があった。
「あっ」
その小さな生き物は短い尾を振りながら二人の足元へと辿り付く。
狭山は亜子の只ならぬ気配を感じ取って、身構えた。
「おい、コイツにはなんの罪も・・・、」
しかし、狭山の予想に反し、亜子はやさしくその小さな犬の額を撫でた。
「おまえ・・・。」
見つめる狭山をよそに亜子が問い掛ける。
「狭山さん。」
「ん?」
亜子の瞳に光るものが見えた。
「この子、かねいい大ですれ。」
「ああ・・・そうだな。」
亜子はその犬を抱きかかえると、静かに歩みだした。
彼女は決意していた。わたしには使命がある。阿島さんが彼にしか出来ないことをしたように。
わたしは作家として、わたしにしか出来ないことをしなければならない。
そう、わたしが見てきたこと全てをみんなに伝えることが使命なのだ。
わたしは書こう。全てをブログによって。失ったものを再び取り戻すために。
廃墟の中、夕日を背にする3つの影は地平線に沈む夕日と呼応するように徐々に、徐々に、長くなっていくのであった。

  
一ヵ月後。
「行く当てはあるの?」
破壊をなんとか免れた成田空港では既に運航が再開され始めていた。
「ああ、おれは自分がしてきたことの償いをしなければならないからな。」
「でも、それは、昔の・・・。」
「わかってる。でも、これは自分で決めたことなんだ。まず、手始めにおれの"力"を必要としている人たちがいる被災地へ行こうと思う。」
亜子は俯きながら、
「なんなら、一人ぐらいの部屋の広さなら・・・。」
と呟いたが、当の狭山にはロビィの騒音に紛れて聞こえなかったようだ。
「じゃ、また、会うことがあれば。」
「元気でね。狭山さん。」
二人は反対方向に向くと同時に歩みはじめた。
そして、振りかえるのも同時だった。
狭山が亜子を強く抱きしめる。亜子もそれに応えた。
「もう、くよくよすんじゃねぇぞ、この同人上がりの腐女子作家が!」
「アンタこそ、しっかりみんなを助けなさいよ!」
 
やがて、ゆっくりと狭山の手が亜子の肩から離れる。
「じゃ、これでホントのさよならだ。元気でな。」
「狭山さんこそ。」
二人はそれぞれお互いに自分たちが進むべき方向へと歩み始めた。静かに、けれど強い決意を秘めながら・・・。
 
 終
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