閉ざされた逃走経路

「でも、そんな偶然があるんですか?」
「佐野の証言だと、その女のサンプル瓶は途中で当然、廃棄するつもりだったらしいが、どういうわけか、その会社に忘れてきたらしい。」
阿島が答える。
「その女の人は捕まったんですか?」
亜子は阿島に質問するうち、誠実に答えてくれる阿島に、警戒心を徐々に解いていった。
「捕まるもなにも、その女、黒木はすでに施設に収容されていた。」
「えっ、施設?」
「そう、彼女はSirouts博士のブログ中毒患者専用収容施設に措置入院されていたんだ。妄想性のひどさから、LV.5の施設に収容されていたらしいが、なぜか、郵送物のチェックをすり抜けたらしい。」
cookpadにパクられたための復讐という主張も?」
阿島はうなずく。
「おそらく、彼女の妄想だろう。彼女は外出許可が出たときにその材料を持ち込んだらしい。患者とはいえ、囚人とは違い、強制的な監視もできなかったということらしい。」
「でも、彼女はなんで、そんなものが作れたんですか?」
「彼女は古代生物学の遺伝工学研究グループにかつて所属していたんだ。」
「お二人さん、話の途中で申し訳ないが、どうやら目的地の変更が必要なようだ。」
先ほどから、黙っていた狭山と名乗る無口な男は前を向いたまま、二人に話し掛けた。
彼が、積極的に話し掛けたのはこれがはじめてだった。
「なんで・・・!?」
亜子は問いかけを途中で止めなければいけなかった。なぜなら、亜子たちが乗っている車の前方50メートル先にいる存在に絶句したからである。
あいつだ・・・。あいつのせいで俺たちは・・・、くそ、俺は仲間たちに何もしてやれなかった。」
阿島が顔をゆがめながらつぶやくのを狭山が制した。
「感傷はあとだ。今はとりあえず逃げることが先決だ!」
狭山は信じられないようなドラインビングテクニックを用いて、横転して黒煙を上げている車をすりぬけるようにして急ハンドルを切った。
「どこで、そんな技術を・・・!」
阿島は亜子をかばいながら狭山に問い返す。
「それは、ちょっと言えねぇな・・・w」
背後から大地を揺るがすような音が響き渡る。どうやら、こちらの存在に気づいたようだった。
3人の長い長い逃走劇が始まった・・・。