審判の日

新社屋の中は不自然なほど静まりかえっていた。都内の周辺地域は全て封鎖され、付近の歩行者・自動車の流れも遮断されたうえ、立ち入り禁止区域となった。しかし、政府からの正式な見解はまだ発表されていない。
「エレベーターは作動しているようです。」
入隊してまだ2年目の阿島が確認する。外の温度は2・3℃だが、阿島の顔にはうっすらと汗が見えた。
「よし、突入」
オフィスカウンターには、まるで主を失ったよう侍従のようにベージュ色の腰掛けが居心地悪そうに横たえていた。フロアにはバッジプレートが散乱していた。
「社員はどこにいったんでしょうか?」
「しっ!・・・あの音が聞こえるか?」
カウンター奥の入り口のセキュリティドアは無残にも全て壊されていたが、セクションフロアから、僅かだが紙をこすり合わせるような音が聞こえてきた。
副隊の阿島と小林は後続のメンバーを確認後、静かに奥の入り口の方へと近づいた。
のちに、この世界が"獣"に食い尽くされる六日前の出来事である。