異星からお客さんが来たお♪

先日うちのマンションにお客さんがきた。オートロックなので、まずはエントランスでうちの部屋番号が押され、ホログラムインターホンで俺が人物特定&異常遺伝子/簡易人格スキャンで安全を確認したあと、エネルギーフィールドロックを解錠するわけなのですけども、衛星宅配便でもないし転送屋さんでもないし、どうも知らない人っぽいので、手の込んだ海賊版脳モジュール販売か改造マイクロマシンの押し売りか何かかしら、と思った。

ホログラムインターフォンの映像に相手側からの信号でスクランブルがかかる時点でおかしいことに気付きまして「ええと、アコギナさんですよね?」とか言っておるわけです。エントランスの転送受けには政府管理ID出してないから相手が俺の名前を知ってる時点でおかしいのです。さらに転送受けは量子暗号付なので、転送物から名前を知るという可能性も非常に少ない。なんかおかしいなと思ったら、話がどんどんおかしな方向にいく。見知らぬお客さんを仮にAとします。やたらどもった感じの、いまだに言語調整モジュールを埋め込んでないような、乱暴に言ってしまえば[差別表現です:削除されました]口調の人です。

A「アあ、ア、あノ、ガニメデのスズキさんと話して、ソ、それでここに来ればいるって聞いたんデ」
俺「え? ガニメデ?」
A「が、ガニメデのスズキさんからここのコロニー聞いてきて、へ、部屋番号は○○○で、で、ですよね?」
俺「ちょ、ちょ、待って。ガニメデって何ですか?」
A「が、ガニメデのスズキさんが言ってて、今ヤマゴンのところにも行ったんですけど、ヤマゴン知ってますよね?、ほ、ホら左手がルナチタン製の・・・」
俺「ちょ、話が全然わからないんですが。何のことですか?」
A「ここ、火星区○○、第二コロニーの○○○の○号室ですよね? スズキさんから聞いたんで」
俺「ちょっと待ってください。ガニメデって、木星とかの殖民衛星のガニメデですか?」
A「あア、ア、あのエウロパ特区のスズキさんです」
俺「なんのことかさっぱりわかりません。スズキっていう知り合いはいないし、そもそもエウロパ特区なんて生まれてから一度も行ったことないですし、だいたいあそこって土着生物が住民を襲った"エウロパの悲劇"以来、人住んでいませんよね?」
A「ああ、そうですか……。おかしいなあ……。でも住所はあってますよね? ○○のアコギナさんですよね?」
俺「それはそうですけど、何かの間違いじゃないですか? なんかあなたアタマおか・・・」
(ピーーー----ッ!)
ここで言葉を継ごうとした途端、けたたましい音が頭の中で鳴り響いた。穏当でない言葉を規制する政府監理の倫理モジュールにひっかかったようです。
俺「・・・と、とにかくおかしいですよ。何の用なんですか?」
A「おかしいなあ……。イ、いるって聞いてきたんですよ。コ、今周期の一月からいるって聞いてたんで」
俺「うちはもうここ住んで3周期ですよ」
A「え? 今周期の1月から住んでるんじゃないんですか? おかしいなあ……。とりあえずここ、フィールド解除してもらえませんか?」

ここらあたりでまたOTL*1から購入した、頭の中の危険回避モジュールがけたたましく鳴り響きまして、怖くなってインターホンを切りました。そしたらまた10分後くらいにインターホンが鳴る。足がくがくして運動調整マイクロマシンの助けを得ながらも再びホログラムをONにしました。

A「あ、アノ、るrるるrと、すぶブ、すいぃいいません先ほどの者ですけど。す、スズキさん、知らないですか?」
俺「誰なんですかスズキさんて……」
A「あ、スズキさんとは金星の保護区で2回くらいしか会ってないんですけど」
俺「はあ? 一体どこで会ったんですか」
A「あ、あの小惑星帯の小岩で」
俺「????? だってさっきガニメデとかエウロパだとか木星の衛星軌道上だって言ったじゃないですか。あなたとスズキさんがガニメデで同僚だったということじゃないんですか?」
A「ソ、ソレ、それで、ス、スズキさんに3万ユニバースほど貸してるんですよ。j、上火星したばっかりで、それで困ってて」
俺「何を言ってるのかさっぱりわかりません。衛星警備ユニット呼びますよ」
A「いや、あ、あの、衛星警備ユニットとかじゃなく、す、スズキさんは知らないんですか? おかしいなあ……。さっきヤマゴンのところにも行ったんですけど」
俺「だから俺はスズキさんなんて人は知らないし、ヤマゴンって人も知りません。何かの精神汚染じゃないですか?」
A「デ、でもアコギナさんですよね? 宇宙暦○年○月○日生まれのアコギナさんですよね?」
俺「(!!!!! なんで知ってんだ!!!???)そ……、そうですけど……」
A「スズキさんからアコギナさんのことを聞いて、それで来たんですけど」
俺「一体何が目的なんですか? 本当にユニット呼びますよ」
A「ス、スズキさんを知らないですか……。おかしいなあ……。でもここ、コロニーナンバーも合ってるし、あなたはアコギナさんで間違いないですよね……」
俺「スズキさんってどういう人ですか? 何者なんですか」
A「地球生まれなんですけど」
俺「地球生まれっておかしいじゃないですか。地球はとっくの昔にポールシフトで保護区完全管理体制下ですよ? そんな歳の離れた、延命義体化した知り合いなんているわけもない」
A「えエェ、デ、デもスズキさんからアコギナさんのことを聞いて、ここに来れば会えるということで」
俺「何のことかわかりません。いい加減にしてください」

話かみ合わざることエウロパの土着生物のごとし。というか言ってることがめちゃめちゃなんですよ。どこの誰ともわからない地球生まれの義体老人(スズキ)が、なぜか俺の住所氏名生年月日を知っていて(当然外部メモリーに記録があったということですよね)、しかもそれを知り合ってまだ2回しか会っていない、どこの誰ともわからないAに教えるとか、一体どういう状況だったら起こりえるのかっていうね。皆さん自分の記憶スキャン参照してよく考えてほしいんですけどね、聞かれてもいない友人知人の住所氏名生年月日を赤の他人にメモリーセンドしたことってあります? ないでしょ普通。何かはっきりした目的がない限り、そんなもん人にセンドしたりはしない。というか俺に地球生まれの知り合いとかいねえからマジで。いるわけがない。何、エウロパ特区って。木星のどの軌道位置にあるのかも政府は秘密にしてるし。

で、そのAは、スズキに貸した3万ユニバースを、俺に対して払えとは決して言わないんですよ。ただ困った困ったと言って、スズキを知らないかと尋ねてくる。何なのこれは一体。意味がまるっきりわからなすぎて怖すぎる。

それから巡回警備ユニットに連絡したらわずか5分で屈強な強化装甲ユニットが3ポッドも来てくれたんですけど、その時には既にAはエントランスから姿を消していました……。

ほっとした俺はとりあえず、インターホンのホログラムを、キ、切ろうとしたところ何かおかしいんです。最初は以前ルナで調整してもらった、ギ、義体ソフトウェアのエラーだとオモタんです。ト、ところが俺の意思に反し、腕が全く動かない。エラー表示も網膜ディスプレイに何にも表示されない。こんなことは脳内マイクロマシンや義体で起こりえるハズないわけで・・・。

ソ、そこで俺は思いだしたわけです。音声会話にプリミティブなメッセージを意図的にノイズとして紛れ込ませることによって、圧縮された情報なら倫理モジュールのフィルタを潜り抜けて相手の意識下に直接送りつける技術が、カ、開発されつつあるということを。リ、理論レベルでは偽装人格構造体ほどの情報量でも2,3分の会話で送ることができると。デ、でもその技術はまだOTLでも試験段階にも達していないハz

「ねぇアナタ、どなたから?」
「ナ、ナンでモない、タダのマちガイだ・・・」
「あ、そう・・・それならいいけど、なんかアナタしゃべり方変よ、ルナのモジュール定期健診で診てもらった方がいいわよ?」
「ナ、ナに、カ、かまわなナイサ」

オーバーライトカンリョウ。コレデ コノユーキタイハ ワレワレノ コントロールカダ。サッソク、ドーホーノスズキニ3マンユニバースヲ ワクセイギンコーケイユーデ フリコムトスルカ・・・

ジンルイオワタ \(^o^)/

*1:Original Theory Laboratory