ブログを成功させるための34の秘密と文房具まとめ
冷たい空気がわずかなドアの隙間から部屋に流れ込む。
「まず、我々はあなたに伝えておかなければならない。」
看護師と呼ぶには余りにも逞しく重々しい肉体をもったその男はこちらに近づきながら、「対象者」に接する上での注意点について説明し始めた。
「最初にひとつ、彼に物を与えたり、彼から物を受け取ったり絶対にしないで下さい。」
背後で防弾仕様の扉が呻き声のような音を立てて閉まった。
「次に彼の1m以内には近づかないで下さい。」
大きな体を左右に揺らし、歩みを止めずにその大男は続けた。
「必ず彼の動きから目を離さないこと。先月ここを訪れたカウンセラーはこれを守れなかったために右目の視力を失いました。デスクの上のボールペンでね・・・」
唾を飲み込む音が部屋の中に響き渡る。職業柄慣れているとは言え、緊張が私の体を蝕み始めていた。
「さすがのドクターも今回のようなケースは初めてですか?」
歩きながら喋ることに疲れたのだろう。看護師長はパイプ椅子を自分の方へ引き出すとおもむろに腰を下ろした。
その体重に椅子が不満そうな音を立てる。
「いや、その・・・まぁ、さすがに今回のような・・・いわく付きの患者は始めてだね・・・」
「そうでしょう。アイツは普通とは違う。」
肉を腐らせたような悪臭が看護師長の息から嗅ぎ取れる。私は思わず顔をしかめてしまった。
それを知ってか知らずか、彼はそのまま言葉を継いだ。
「それを言うなら、ここには普通の奴なんていませんがね・・・だが、奴は特別だ。」
いやにもったいぶった言い方をする。私が徐々に痺れを切らしてきたことを感づいたのか、彼は再び立ち上がると最後の警告を私に伝えた。
「先生、最後に言っておきます。奴の見た目にだまされちゃぁ駄目だ。おい、第二中間扉を開けろ」
脇で控えていた、看護師長に負けず劣らずの体格をした男が、静かにキーパッドに数字を打ち込むと、薄暗く不潔そうな廊下が扉の向こうに姿を表した。
「必ず、いいですか、必ず何かあった場合には先ほど渡した装置のボタンを押してください。出来うる限り早く駆けつけます。本来なら私たちがご一緒に・・・」
「ああ、分かってる。だが”彼”自身が要望した条件だからね。仕方がないさ。」
私はそれだけ言い終えると、その薄暗い廊下へと向かっていった。
恐怖の時間
その男は予想に反し、至極饒舌であった。
「そいでさぁ、そいつのかぁちゃん、風呂入ってた最中でバスタオル巻いたまま出てきちゃってさぁ、あら、アンタもおやつ食べなさいとかいいながらスイカだしてきたんよ、くくっ」
彼は眼に怪しい光を宿しながらも、顔から笑みを絶やさなかった。
「んで、そのうちオレの連れと一緒にスイカ食べ初めて、オレも気まずいからスイカ食べだしたわけ。したら、その連れのかぁちゃんがさぁ、スイカの種落ちたとか言って、俺たちのほうに背を向けたまま床に落ちた種を拾ったのよぉ、カッコがバスタオルだからさ、そのかぁちゃん前屈したときに、アソコが丸見えでさぁ、今思えばバカらしいんだけど、そん時俺らそんなの見たことねぇもんだから、うわー、こいつン家のかぁちゃん、ケツにウンコ付いてるって思っちゃって、あん時はパニクったなぁ、いやぁまったく・・・」
そう言い終えると、彼は一息つくようにして椅子に座り直した。
そして、彼の顔から笑みが消えた・・・。
「ところでアンタ、俺に用があるんだろ?」
私は頷くと、例のメモ用紙を胸ポケットから用心深く取り出し、彼の隣にあるモニターに映るようカメラの前に差し出した。
そのメモ用紙には走り書きでこう記してあった。
『A. Sirouts』
私はモニターを眺めている彼の横顔を注意深く観察しながら切り出した。
「これは、ある組織の建物内に残されたメモなんだが、この人物名らしき名前に見覚えはないかい。いや、名前に覚えがないとしても、筆跡に見覚えがあるんじゃないかな?」
しばしの沈黙のあと、彼は自分専用のメモ用紙になにやら書き出すと、それを提示用カメラに向けて差し出した。
「アンタが知りたがってることはここにあるんじゃないかな?」
ノイズだらけのモニター画面には次の文字列が映し出されていた。
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