闇の中に佇む男

男は黒煙をあげながら、まだ燻っている建物の残骸を眺めながら、口に咥えていたタバコを揉消した。右手にある携帯電話を"通話"に切り替える。
「Sか?工場のようすは?」
受話器からくぐもった声が聞こえる。
「全壊です。偽JとオリジナルのNも死亡した模様です。」
「そうか。ではあとは目撃者がいないかどうか確認した後、本部へ戻れ。こっちはNの人格移植したサーバの統合処理で忙しい。急いでくれ。」
「ハイ。」
Sと呼ばれた男はおもむろに携帯をジャケットの内ポケットに仕舞いこむと、ちらりと工場の跡地を一瞥したあと、傍らに停めてあった車に乗り込んだ。
本部へ戻った後はまた、本社への"ためにならない"人間を処分する仕事へと戻らねばならない。
思えば、JとSは長い付き合いであった。Sがまだ名前を持っていた頃、恩師を殺害し、警察に追われていたSを拾ってくれたのがJであった。その後、Sの"特殊"な能力を見抜いたJは「本社」のためにならない事をしでかす奴等を"処理"する役目をSに与えてくれたのだった。
それまで、人と付き合うことに意義を見出せなかったSは、相手を”処理”する瞬間に初めて他者との関係性を感じたのであった。Sがその後、Jの仕事を積極的に手伝うようになったのも、その感覚への飢餓感からであった。そして、その「本社」の闇を担うことが彼自身の使命だと感じるようになっていくのに、そう時間はかからなかった。
「これが今回のターゲットだ。」
Jから渡された全ての資料を暗記したSは、皮手袋をはめながら、今回のターゲット、「本社」を選ばなかった、今年のベストサイト賞選考委員の自宅前に夕暮れの闇のなか、静かに佇むのであった。
おっぱいポローン