『はてブをはじめた人』


人間がまだはてブを知らなかった頃のお話です。
その頃はよく人間が人間のサイトをリンクすると無断リンクとして議論が起こりました。
それは、おたがいが持つ、ネットに対する考えの違いからでした。
しかもうっかりすると、じぶんの親や兄弟のサイトやブログをひどくdisることがありました。
リアルとネットの見さかいがないのですからこんなぶっそうな話はありません。
   
ある人が、うっかりじぶんの兄弟の同人サイトにリンクすると、無断リンクとして喧嘩になってしまいました。
あとでそれと気がついた時は、もう取りかえしがつきません。
   
「ああ、いやだいやだ。なんてあさましいことだろう。
こんなところにくらすのはつくづくいやだ。」
   
その人はそのネットコミュニティをあとにして、あてのない旅に出ました。
   
広い世間には、きっとどこか、まともなコミュニティがあるにちがいない。
何年かかってもよい。 そのコミュニティをさがしだそうと心にきめました。
長い間、あてのない旅がつづきました。
ヤフーブログにもFC2にも行きました。
どこへ行ってみても、やっぱりお互い同士で転載問題や無断リンク絡みで喧嘩をしていました。
それでもあきらめずに旅をつづけました。
そうするうちW3Cの規定がなんども改定されました。
若かったその人もいつのまにか、 だいぶおじいさんになってしまいました。
    
旅の空で年をとっているうちに、とうとうその人はある見知らぬコミュニティへたどりつきました。
それが、ながいあいだ、その人がさがしていた「はてな」というコミュニティでした。
そこではだれもがクネクネと仲むつまじく暮していました。
リアルはリアル、ネットはネットと、(一部を除いて)ちゃんと見さかいがついていました。
    
「もしもし、あなたは、どこからきなすったかね。そして、どこへ行きなさるんだね」
そこのコミュニティの年よりが、旅の人にききました。
    
「どこといって、あてがあるわけではありません」
そう言って、旅の人は、争いの無いネットコミュニティはないかと長い間、探し歩いた話をしました。
    
「まあまあ、それはえらい苦労をなすった。
なにね。もとは、こちらでも、やっぱり言及のないTBや無断リンクが議論のマトになったもんです。
それで、しじゅうまちがいがおこったが、はてブするようになってから、
もう、そのまちがいも、なくなりましたよ」
   
はてブですってー?」
その人はびっくりしてききかえしました。
   
「そのはてブというのは、いったいどんなものです?」
    
「こっちへきてみなされ。これがはてブというものです。」
年寄りはしんせつにはてブトップへあんないしてはてブを見せてくれました。
そのうえ使い方やタグのつけ方まで、くわしく教えてくれました。
    
その人は大よろこびで、はてなのアカウントをわけてもらいじぶんのコミュニティへ帰っていきました。
はてブでぶくましただけで、もう無断リンクで喧嘩しなくて済むようになるー。
そう思うと、一時も早くみんなに教えたくなりました。
    
なにはさておきまっさきにはてブを使ってぶくましまくりました。
ひととおり有名サイトをぶくまし終わると、安心して、その人は久しぶりになつかしい知りあいや友だちのブログやサイトをぶくましました。
しかし、だれの目にも、そのぶくまが無断リンクに見えました。
みんなは、よってたかってその人を叩こうとしました。
    
「ちがいます、ちがいます、よく見てください。無断リンクなんて考えはないのです。」
そう言って、いくら大きな声でいいわけをしてもみんなの耳にははいりません。
    
「おやおや、なんてまあ、無謀なひとだ。」
     
「ほんとうだ。なんでもいいから、早く炎上させてしまえ。」
    
とうとうその人はみんなにひどいコメントをつけられて、その日のうちにブログを閉鎖してしまいました。
    
それから、しばらくたってからのことです。
リファラのなかにみたこともない便利な「はてブ」というサービスがみつかりました。
ためしにちょっとばかり登録してみたら、よいかんじがしました。
それがWeb2.0だということは、だれも知りません。
知らないながらも、みんなはそのはてブを利用しました。
すると、はてブを利用した人だけは、無断リンクという概念を捨てました。
それからは、みんながはてブを利用するようになりました。
もう、昔のように無断リンクで喧嘩になるようなこともなくなりました。
    
はてブをはじめた人は、だれからも礼をいわれません。
そのうえみんなに炎上させられ閉鎖してしまいました。
けれども、その人のま心はいつまでも生きていて大ぜいの人をしあわせにしました。

おしまい。