マルドゥック・レッドショール

左手袋の一部を手錠に変身──老婆の背後に回る。
「手を腰の後ろに」
 素直に応じた。「ニコラスから聞いたわ。あんた、老婆のクセに牙があるんですって?」
 手錠をはめて拘束した。「もう一度聞く。どうしておばあさんのお口はそんなに大きいの?」
 答えない。その姿勢のまま、手錠を鳴らしながら身をよじって、こちらを見た。
「その答えを聞いて生きながらえた者を私は知らない」
 その瞳の奥に、光──確信、挑戦、警告。
《戦意の臭いだ!》悲鳴のような直感。
 頭上──斜め上。カサカサと何かが小さな音を立てる。
 編みかごから対狼用クッキー型特殊イリジウム弾を展開させながら飛び退いた。
 バスルーム──天井付近の陰から、毛がふさふさと生えた尻尾が飛び出してきた。
 かごから傷痍性ミルクポッドを叩きつけがなら身をひねってかわす──壁に毛針が刺さる。折れる。
「あかずきんちゃああああん!」オオカミやろうの絶叫。
 右手の無反動性ブレッド砲を振りかざして跳躍──部屋の壁に向かって落下。
 膝をついて着地。真っ黒な尻尾が猛スピードで天井を走って廊下から飛び出す──まるで発射された弾丸のような速度──追いかけてくる。
「あかずきんちゃああああん!それはお前を食べるためだよおおおおおお!」