「ミツホ・バトラゴン」

「奴には気をつけた方がいい。なにせ世間を騒がせた”ブログ魔”だからな」
そう呟くように言うと最重要アルファブロガー収容施設のオーク・マ院長は書類を警備員に手渡した。
「なにかあった場合にはかならず緊急用のTBを打つように。そうでなければ君の命の保障は出来ない」
院長は言うべきことは言ったとばかりにそそくさと格子戸を閉め、ニヤリと笑った。
長く暗い通路を行くと目的の部屋に辿り着いた。
「やぁ、おはよう、アコギ君」
透明だが、頑丈な防弾ガラスの向こうから先に声をかけてきたのはドクター・シナチヨの方だった。
厳重に隔離されていることを理解しながらもアコギの額には室温とは似つかわしくない汗が浮き出し始めていた。
「まず、僕があなたのところへ訪れた目的をはっきり伝えておきたい。最初に」
「いや、問題は君が何を望んでいるかだ」
博士は爛々と目を輝かせながらアコギの顔を覗き込む。
「率直に言おう。まずブログを再開する権利を僕自らオーク・マ院長に掛け合おう。そして…」
「おれに関する噂」
微笑を顔に浮かばせながら博士は呟いた。
「・・・!」
一瞬身を堅くしたアコギを見つめながら、博士は得意そうに首を前へ突き出すと防弾ガラスの向こうから歌うように喋りだした
「君は最近どんな夢をみる?誰かに追いかけられる夢かな?それとも本番でミスをしでかしてしまう夢かな?」
「夢の話なんかしたくない!僕は バトンについて」
「君はうわべしか見ていない。真実とは・・・」
まるで秘密を暴露するかのように博士は小声でささやいた。防弾ガラスを挟んでもそれはなお鬼気迫るものがあった。
「・・・ネットイナゴの向こうにあるのだよ、アコギ君」
アコギは書類をそそくさとしまい込むと再び出口へと向かうそぶりを見せた。
「残念だったよ、ドクター。今回は有意義な話合いにはならなかったようだ。」
「君に私は選択肢を与えた、罵倒かバトンだ。だが、君はそれさへも選ぼうとしなかった!」
まるで掴みかからんばかりに博士はアコギへ詰め寄るとそう叫んだ。
あまりの迫力からたじろいだアコギにすこし満足を覚えたのか、博士の語勢は普段の調子に戻った。
「君がやるべきことはまず、ワコムのCTE−640/S1の包装を解いて使い始めることだ」
「・・・!な、なぜそれを・・・!?」
踵を返し、一歩、二歩と独房の中央に向かいながら、背をアコギに向けたまま博士は続けた。
「インストールCDにはペイントソフトも入っているに違いない。まずは筆ツールを使って君の思いつくままを書けばいい」
「しかし、それだけでは・・・なにかヒントを・・・」
「ヒントは君自身の中にある。ブログとはそうゆうモノだ。話は・・・それからだ。
 おーーい!!オーク・マ!!お客様がお帰りだぞ!!!」
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ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら院長は博士に話かける。
「あまり新入りをいじめるのは感心せんな」
「・・・。」
博士は院長の顔をじっと見つめたまま答えない。
気まずくなった院長は言葉を継いだ。
「ところでドクター、次の面会人を待たせてあるんだが、今回も断るかね?子連れの若い女性だ。彼女が言うには君のスケッチを描きたいそうだ。どうする?断るかね?・・・・・・わかった。断っておくよ」
そういい終え、通路へと向かおうとした院長に博士は呼びかけた。
「その女性の名前は?」