恐怖!スメル男

その女性は白いコートをふわりとはためかせながらオレの隣に座った。連日の寒波が都内を襲い、一時停車した電車内にも冷気は容赦なく侵入してきた。読みかけの小説に目を戻し、数行読み終えたときにそれは起きた。その冷気に刺激されてか、その白いコートを羽織った若い女性が「くしゅん」と小さなクシャミをしたのだ。
その瞬間、私の嗅覚とそれを担う脳部位がすさまじく活動し始めた。
ふんふん、まず第一レイヤーとして、この匂いは日本酒とビールとワイン、その芳香族の割合から、7:2:1ぐらいか。ん?この焦げたような匂いは・・・そうか、大麦系黒ビール、しかもその麦芽の種類からドイツ産だな、チャンポンかよ、ん、それにこの匂いは焼肉のロース、ミノ、カルビだな、揮発性油脂類の構成からはそんなとこか、ふんふん第二レイヤーとして、口内細菌の割合は硫化性とメタン性の割合からミュータンス菌のベータ型がやや多いな、今のところ悪質な歯周病菌、H5Uなんかには感染していないようだな、ん、待てよ、この匂いは特殊な修飾を受けた硫化水素・・・ははぁ、ガスの濃度から下あごの奥から2〜3番目あたりの唾液腺から少し離れた臼歯が虫歯・・それも第二A段階だな、そろそろ冷たいものとかでもしみてくるはz・・・ん・第3レイヤーからこの匂いは抗ストレスホルモンでもアドレナリン系でもない、んん・・・あ、黄体ホルモンだ、それも苦い匂いと生臭さから月経D2/3週後のはず・・、しかも、膣常在菌の割合が乳酸かん菌とアクメ菌の割合がこの独特のメチル修飾を受けたモノ化合物の組み合わせだと、・・んなんだ???この匂いは、なんでBアルカロイド系の匂い、しかもウリ科特有の・・なぜこの匂いが第3レイヤーから・・・!?もしかしt
「ちょっと、お客さん、お客さん・・・終点ですよ!」